こんにちは、相談に強い柏の司法書士・竹内宏明です。

 

先日、自宅の土地建物の名義を夫から妻に贈与したいとの相談を受けました。

いわゆる「おしどり贈与」というものですね。

相談を受けたのが2019年5月だったのですが、ちょうど2019年7月1日施行の重要な法改正が控えておりましたので、今回は7月1日付での贈与をご提案させていただきました。

おしどり贈与とは?

通常の贈与の場合、110万円(=基礎控除額)を超える贈与を受けた場合、贈与を受けた人は110万円を超える部分について贈与税を支払わなくてはなりません。

 

これに対し、

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できる

引用元:国税庁ホームページ

という扱いがあります。

 

この特例を使った贈与が「おしどり贈与」です。

(※この特例を使った結果、贈与税額が0となる場合でも、贈与税の申告は必要ですのでご注意ください。)

 

長年の夫婦の一方が、他方の将来の生活を思いやってまたは長年の貢献に報いるために自宅を生前贈与する、というおしどり夫婦ぶりをとらえて「おしどり贈与」と呼ぶわけです。

 

実はこの「おしどり贈与」、主に次の2つの理由から、税金の面では必ずしもメリットがあるとは限らないと言われています。

 

理由①

配偶者の場合は、わざわざ生前贈与しなくても、相続で自宅の土地建物を取得すれば相続税がかからないことが多い(配偶者の税額軽減)。

理由②

自宅の敷地に関しては、相続の際に一定の割合の減額が受けられる(小規模宅地の特例)。

 

これらの理由から、相続の際に自宅の土地建物を取得すれば十分だ、というわけです。

おしどり贈与のメリット

しかし、おしどり贈与にもメリットはあります。

 

それは、

「生前のうちから確実に、自宅の土地建物を配偶者名義に変えておける」

というところです。

 

今回私が相談を受けたご夫婦のケースは、まさにここが大事でした。

(以下、実際の事例をもとに、一般的な内容にアレンジしています)

 

ある夫婦の事例

 

ご夫婦はお二人ともまだまだ元気ではありますが、ご主人がかなり年上ということもあり、奥様の将来の生活が気がかりになってきたところ。

 

ご夫婦には長男がいるのですが、この長男が自分の意見や要望をかなり強く主張なさるタイプ。

 

もしもご主人が先に亡くなった場合、奥様と長男との間で遺産分けがうまくいくかどうか・・・?。

奥様の将来の生活の安定を、なんとかいまのうちから確保しておけないものか・・・?。

 

このようにご夫婦でとても心配しておられ、今回の「おしどり贈与」の利用に至ったのでした。

 

生前に自宅の名義を奥様に変えておけば、少なくとも自宅の行く末について遺産分割協議でもめる心配はありません。また遺言書で書き残すという方法もありますが、長男が遺言の内容に異議を唱える可能性もないとは言えません。

 

そこで、生前元気なうちに確実に贈与しておいた方が、ご夫婦としてはその後憂いなく過ごせるということでした。

 

配偶者を保護するための法改正(持ち戻しの意思免除の推定規定)

先にも言いましたが、「おしどり贈与」は配偶者の一方が、長年連れ添ってきた他方の配偶者に対して、将来の生活の安定やこれまでの貢献に対する報いといった意味合いでなされる場合が多いです。

ところが、従来の民法では、このせっかくの生前贈与の意味をなくしてしまうような扱いがなされてきました。

これを解消するためになされたのが、今回の法改正です。

従来の問題点とは

従来は、例えば夫が妻に自宅を生前贈与したとしても、夫が亡くなった際には妻への生前贈与分が特別受益として持ち戻し計算されてしまう扱いでした。

 

※特別受益とは、生前に財産をもらい受けている相続人と、もらい受けていない相続人との間の不公平を解消するための制度です。詳しくは下記の記事をご参照ください。

多額の生前贈与を受けた兄と、何ももらっていない弟(特別受益の話)

 

具体例を挙げてみましょう。

 

被相続人  A(遺言書なし)

相  続  人  妻B・長男C

遺  産  預金1000万円のみ

Aは生前に、自宅(評価額1000万円)を妻Bに贈与していた。

 

従来このケースでは、

AのBに対する生前贈与(1000万円の自宅)が、相続財産に持ち戻されます。その結果、妻Bの相続分は以下のように計算されます。

 

(預金1000万円+生前贈与1000万円)×2分の1-1000万円(生前贈与)=0

合計 0円(預金)+1000万円(生前贈与の自宅)=1000万円

 

つまり、預金からの妻Bの取り分は0です。

妻Bの手元には、生前贈与を受けた自宅1000万円は残るものの、夫Aの預金は一切残らないということになります。

これでは、妻の老後の安定を望んで行った生前贈与が、ほとんど意味をなさなくなってしまいます。

この点が、今回の民法改正で変わりました。

持ち戻し免除の意思表示の推定(民法改正)

2019年7月1日施行の民法改正により、

婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、他の一方に対し、居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、その遺贈または贈与については持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されることとなりました。

この規定により、自宅の生前贈与については相続財産に持ち戻されることなく、遺産分割は自宅以外の財産についてのみで行われる扱いへと変わります。

先ほどの例をもう一度持ち出しましょう。

 

被相続人  A(遺言書なし)

相  続  人  妻B・長男C

遺  産  預金1000万円のみ

Aは生前に、自宅(評価額1000万円)を妻Bに贈与していた。

 

民法改正後は、妻Bの相続分については次のように計算されます。

 

預金1000万円×2分の1=500万円

(※生前贈与は持ち戻しを免除する旨の意思表示をしたものと推定し、遺産分割の対象とはならない)

生前贈与の自宅1000万円

合計 500万円(預金)+1000万円(自宅)=1500万円

 

このように、改正前に比べて妻Bの取得する財産が増えます。

自宅を確保したうえで、その他の財産についても一定の割合を取得できますので、妻の将来生活の安定を願う生前贈与の趣旨を全うしやすくなったと言えるでしょう。

もともと、民法改正前から、被相続人(贈与または遺贈をした者)が、その贈与または遺贈について持ち戻しを免除する旨の意思を表示していれば、その贈与または遺贈については持ち戻しが免除される扱いでした。

しかしこのような意思表示が明確にされていないことが多く、生前の贈与があまり意味をなさなくなってしまうというケースがこれまで見受けられてきました。

今回の民法改正により、持ち戻しの免除については自動的に推定されるとの規定が加わったため、「おしどり贈与」についての被相続人の意思がより尊重されやすくなりました。

なお、こちらの民法改正は2019年7月1日以降の贈与が対象となりますのでご注意ください。