こんにちは、相続に強い柏の司法書士です。

 

「相続登記に期限はありますか?」

 

よくいただくご質問です。結論から先に申し上げますと、

 

「現時点(平成31年3月)では相続登記に期限はありません。

ただし、放置することで生じるリスクはあります。

また、将来的な相続登記の義務化は議論されています。」

 

相続には様々な手続きがあり、なかには期限が定められているものもあります。例えば、

 

・死亡届 7日以内

・相続放棄、限定承認 3か月以内

・準確定申告 4か月以内

・相続税申告 10ヶ月以内

・遺留分減殺請求権の行使 1年以内

 

といったところが挙げられます。

これらの手続きと違い相続登記に関しては、いつまでにせよという期限は現在(平成31年3月)のところありません。

相続登記をするかしないかは相続人の任意となっています。

ただし、「義務ではないのだから、相続登記は当分しなくてもいいのだな」と簡単に考えてしまうのは危険です。

相続登記を放置したまま何代も相続が繰り返された結果、子や孫の代に大変な負担がかかってくるケースもあるのです。

今回の記事では、相続登記をしないまま時間が経つことで生じるリスクについてお話していきたいと思います。

相続登記の放置によって生じる7つのリスク

①相続人が死亡し、当事者が膨大な人数に膨れ上がる

被相続人が遺言書を残していない場合、相続登記を行うためには基本的に遺産分割協議書が必要になります。

遺産分割協議書は、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書をつけなければなりません。相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効です。

ところが、時間が経過し遺産分割協議をしないまま相続人が死亡してしまうことがあります。

遺産分割協議をしないまま相続人が死亡した場合、「死亡した相続人の相続人」が遺産分割協議の当事者となります。

この結果、当事者が膨大な人数に膨れ上がることがあります。

例えば、以下の相続人関係をご覧ください。

 

 

被相続人をAとします。

平成20年にAが死亡した時点で、Aの遺産について相続人であったのは

B、C、D の3名です

この時点で遺産分割協議をしておけばよかったのですが、

上記事例では、遺産分割協議をしないままB、C、Fが立て続けに亡くなってしまいました。

こうなりますと、Aの遺産について遺産分割協議の当事者となる顔ぶれは、

D、E、G、H、I、J の6名です

子どものいない方の相続の場合、相続人も高齢であることが多いので立て続けに亡くなるということは十分ありえます。

このケースではわずかの間に人数が倍になってしまいました。

人数が多いというだけでも遺産分割協議はまとまりにくくなりますが、人数以上にやっかいなのは当事者同士の関係性が希薄になっていくことです。

例えば、GとJは事実上他人に等しいわけですよね。

このように広がってしまうと、遺産分割協議は大変困難になってきます。

それでも上に挙げた事例はまだまだいい方で、実際は当事者が何十人という規模に膨れ上がってしまうケースもあります。

②時間の経過により、相続人が認知症を発症

遺産分割協議をしないままにしておくうちに、相続人の一部が認知症を発症してしまうというケースもあります。

相続手続きは相続人も高齢である場合が多いので、決して珍しい話ではありません。

認知症が進んでしまった場合、その相続人(Aさんとします)は遺産分割協議に参加することができなくなります。

かといって、相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効ですので、Aさんを遺産分割協議から外すこともできません。

この場合、家庭裁判所に対して「後見開始の申立」をし、Aさんの成年後見人を選んでもらわなければなりません。家庭裁判所に選ばれた成年後見人が、Aさんの代理人として遺産分割協議に参加します。

ただし無事に成年後見人が選任されたとしても、いくつかの問題が残ります。具体的には次のようなことが挙げられるでしょう。

 

・成年後見人はAさんの利益を保護する立場にあるので、Aさんの法定相続分が確保されていないような遺産分割協議は基本的に認められない。つまり遺産分割の仕方に柔軟性が失われる可能性がある。

 

・成年後見人には、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれる可能性がある。親族を後見人に選任してほしいとの希望を家庭裁判所に伝えることはできるが、希望通りにいくとは限らない。専門職が成年後見人についた場合、専門職に対して報酬の支払いが必要になる

 

・いったん成年後見が開始すると、基本的にAさんの生涯にわたってずっと続く。遺産分割が終了したからといって成年後見が終了するわけではない。つまり以後、Aさんの財産は成年後見人が管理することになる

 

Aさんの認知症が発症する前に遺産分割協議をしておけば、このような制約をうけることなく遺産分割ができたわけです。

③相続人の中に、行方不明者がでてくる

遺産分割協議をしないままにしておくうちに、相続人の一部が行方不明になり連絡が全く取れなくなってしまうことがあります。

遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりませんので、このようなときは次のいずれかの対応が必要になります(行方不明の相続人をBさんとします)。

対応1:不在者財産管理人の選任

Bさんのかわりに遺産分割協議に参加する「不在者財産管理人」を家庭裁判所に選んでもらいます。

「不在者財産管理人」は、Bさんの利益を保護する立場にあるので、遺産分割協議の内容においてもBさんの法定相続分を無視することはできません(家庭裁判所が許可しません)

ただし、Bさんにはとりあえず遺産の相続をさせず、「もしBさんが現れた場合には、特定の相続人が法定相続分相当の代償金等をBさんに対して支払う」といった「帰来時弁済型(きらいじべんさいがた)」の遺産分割協議は認められています。

対応2:失踪宣告の申立

Bさんの生死が明らかでないときに、家庭裁判所に対して「失踪宣告の申立」を行うことで一定期間の経過をもってBさんが死亡したものとみなすことができます。

Bさんが死亡したものとみなされれば、Bさんを除く形で(またはBさんの相続人に参加してもらう形で)遺産分割協議を行うことが可能になります。

ただし、法律上とはいえBさんを死亡したものとみなす手続きになりますので、審判が下りるまでに様々な調査が行われます。申立から審判まで、相当の時間がかかることがあります。

④一部の相続人による担保権設定(または売却)

Aさんが死亡し、相続人としてB・C・Dの3名というケースを考えます。

遺産として甲土地が残されました。遺産分割協議はまだ行われていません。

このとき、相続人Bが事業の資金繰りに苦しんでいたとしましょう。

金融機関Z社からの資金援助を受けたいBは、C・Dに相談することなく、A名義の不動産をB・C・D3名の共有名義に登記します(この登記はBひとりで申請可能です)。

さらにBは、自分の共有持分(3分の1)について金融機関Z名義の抵当権を設定しました。

 

 

こうなると、Bから抵当権の設定を受けた金融機関Z社に対して、C・Dは「まだ遺産分割をしていない」といった主張をもって退けることはできなくなります。

Bが行った登記は、Bの法定相続分をもとにしたものであり、金融機関Z社は正当な権利を取得できるとされているからです。

共有者Bの持分に抵当権がついた状態では、その後CやDが甲土地を売却したくても、通常買い手はつきません。甲土地の処分は難しくなります

 

なお、上記のケースではBが自分の持分に抵当権を設定するという例でお話しましたが、Bが自分の持分だけを売却してしまうという可能性もあります。

この場合も、C・Dは以降Bの持分を買い受けた第三者と甲土地を共有するという状態になってしまい、甲土地の処分は困難になります。

⑤一部の相続人の債権者による差押

Aさんが死亡し、相続人としてB・C・Dの3名というケースを考えます。

遺産として甲土地が残され、遺産分割協議により甲土地はDが単独で相続することになりましたが、その旨の登記はまだなされていません。

一方、Bは事業資金の融資を受けていて、その返済が滞っていたとします。

Bの債権者である金融機関Zは、Bに代位してB・C・D3名での共同相続の登記を入れたうえで、Bの持分を差し押さえることができます

※「代位」とは少し難しい言葉ですが、債権者(金融機関Z)が自己の債権(Bに対する貸金返還請求権)を保全するためにBの権利をBに代わって行使することができるというものです。法律で認められています。

 

 

こうなると、単独で甲土地を相続するはずだったDは、そのことを金融機関Zに対して主張することができません。

⑥不動産を容易に処分できなくなる

上記①から⑤に挙げたように、相続登記をしないまま時間が経過すればするほど、相続した不動産の処分は難しくなっていきます。

不動産を処分するには、登記名義人を相続人に変えなければならないためです(亡くなった方名義のままでは処分できません)。

 

・相続した不動産を担保に事業用資金の融資を受けたい

・不動産価格が上昇したので売却したい

 

といったタイミングが訪れても、そのときにはそう簡単に物事が進まなくなっているかもしれません。

⑦手続きに要する費用・時間が膨れ上がる

相続登記をしないまま放っておくということの根底には

「忙しくて手続きに向き合う時間がない」

「手続きにかける費用がもったいない」

「よくわからないから面倒くさい」

といったお考えがあるのではないかと思います。

相続手続きは、一般の方にとってはわからないことだらけ。煩わしい面が多々ありますから、お気持ちはごもっともです

しかしご説明したように、時間が経過すればするほど手続きが複雑になり、費用もどんどん膨れあがっていきます

早期に手をうっておくことが望ましいことは、これまでご説明さしあげたことからおわかりいただけたのではないでしょうか。

まとめ

私は司法書士として様々なケースの相続登記をみております。

なかには、何世代も前の相続登記が未了のままになっており、解決までに大変な困難をともなうようなケースもあります。

結局のところ、後になって困るのは子・孫の世代なんです。

 

「○○さん(何代か前の親族)のときにちゃんとやってくれていれば・・・」

 

と途方に暮れる依頼者の方に出会いますと、相続登記は早めに済ませるに越したことはないと痛感いたします。

思い立ったら、司法書士にご相談いただくことをお勧めいたします。